田沢湖と玉川の軌跡(後編)

山に水路トンネルを掘削し、水を移動させるのは、
香川用水、小丸川発電所(宮崎県)で見る事が出来ます。

前者は山脈という物理的障壁をカットし、水路を作るというものですが、
後者は余分な電気を「位置エネルギー」に変換し、
永久的に貯めておく事も出来る画期的な蓄電方法なのです。

電”池”の役割を果たす水力発電所

水力発電というのは、水の位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、
タービンを回し、発電するというものです。
火力発電や原子力発電と違って熱を出さない為、発電効率が非常に高いです。

水力発電は、位置エネルギーとして莫大なエネルギーを貯蔵出来る一方、
水の量が増減する事から、不安定であると言えます。

水力、風力、太陽光は、時間帯や季節によって出力の増減が大きい為、
全て再生可能エネルギーで賄うというのは、現段階で課題があります。
当然、需要も時間帯や季節によって異なります。

発電というのは、送電する事は出来ても、莫大な電力を蓄電するには、
まだまだ技術的な問題があるのです。

小丸川発電所では、夜間の余剰電力を使って、
下部の石河内ダムから上部の大瀬内ダムへと揚水し、
流動的な電力から固定的な位置エネルギーへと変換します。
これを「揚水発電」と言います。

今後、再生可能エネルギーの割合を増やすとなると、
必然的に、揚水発電の需要も増すでしょう。

玉川上流は階段構造で貯水している

さて、田沢湖・玉川に話を戻しますが、こちらは揚水発電所はありませんが、
玉川はダムが幾つも存在する多段構造となっています。

上流から玉川ダム(堤頂標高406m、1990年竣工)、
鎧畑ダム(堤頂標高329m、1957年竣工)、夏瀬ダム(1940年竣工)、
神代ダム(1940年竣工)の4段構造となっており、
導水路によって田沢湖の方にも分岐し、合流しています。
大半のダム・発電所群は1940年に完成したと言えます。

田沢湖から玉川へと水を引く小保内発電所は、
県内最大の最大出力を持つ水力発電所ですが、
高低差が小さい為、小丸川発電所に比べ、最大出力では、かなり小さいです。

ダムの中では、上流にある玉川ダムが最も大きく、
主な利水機能を担っているダムです。
ただし、一つの大きなダムを作る事よりも、多段構造にする事で、
貯水量と流入量を稼ぎ、コストや環境への負荷を減らす効果もあると思われます。

玉川ダムは1,000~1,600m級の山々に囲まれており、
特に東側の八幡平は日本有数の豪雪地帯であり、高所の雪は夏まで溶けません。
言わば、屏風のように玉川ダムを囲う山々全てが、自然のダムなのです。

まとめ

日本のエネルギーに占める水力発電の割合は7.7%(2019年)※1であり、
2021年には太陽光発電に抜かれています。※2
日本以上に治水を国策の要としている中国でも、水力発電の割合は2割未満です。
これは、殆どの水力発電が揚水発電ではない
「一方通行」となっている為だと思います。
利水においても、揚水発電は河川に流した水を元のダムに戻す事も出来ますが、
こちらは、あまり用途があると言えないでしょう。

それでも1950年代は、水力発電は石炭に替わる、
国内で自給出来る貴重な新エネルギーでした。
黒部ダムを始め、日本の復興に与えた影響は小さくないと言えます。

震災後は、再生可能エネルギーの需要が急速に増えましたが、
震災後の10年間で太陽光発電の導入量が18倍※3に増え、
今や国内の電力の1割を賄っている訳ですから、凄いと思います。

最近では、太陽光発電によって発生した余剰電力を、
揚水発電に回す機会も増えているそうです。※4

しかし、かつて日本のバブルが弾けたように、太陽光発電への投機の過熱は、
老朽化の問題から何れ冷めると思います。
再生可能エネルギーは太陽光発電偏重ではなく、他と補い合い、
相乗効果を狙った方が効率的でしょう。

最近の秋田県は洋上風力発電の整備も進んでいます。
今後、秋田県でも揚水発電所が開発されるかも知れません。

また、熱エネルギーのみを回収する太陽熱温水器も、今後復活するかも知れません。

出典

※1

※2

※3

※4

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