田沢湖と玉川の軌跡(前編)

秋田県の田沢湖は、最大水深423m、平均水深280mと、
何れも日本一の深さを誇ります。
田沢湖水面の海抜は249mである為、最深部は海抜-174mとなります。

田沢湖は噴火によって出来たカルデラ湖で、
7.2立方キロメートルもの膨大な水を、長い時間をかけて溜めています。

秋田県において手付かずの自然は、鳥海山、八幡平、白神山地、
十和田湖が挙げられますが、これらは県境にあります。

全て県内にある八郎湖や田沢湖は、その自然環境よりも、
戦中~戦後の食糧確保の為の資源として、積極的に開発されました。
特に戦後は米の需要が逼迫し、農家の収入が非常に安定していた時代です。

交通やインフラの為に多少の自然破壊はやむを得ない場合がありますが、
筆者としては、それ以上に問題なのが、50年後、100年後、
持続的にそれらをコントロールし続けられるかという事です。

未来、技術が進歩する事はあっても、その分だけ、
ノウハウを継承するのが難しくなるからです。

一時の利益と後始末の代償

岩手県の旧松尾鉱山も、硫黄需要の暴落から人が去った後も、
現在でも鉱毒を含む排水が毎分17~24トン流出しています。
排水は中和処理施設で無害化され、赤川へと放出されています、

松尾鉱山の歴史は数十年続きましたが、一時の隆盛も何れ終わりが来て、
荒らされた自然だけが残るのです。

公害とは、これまで経済成長の副作用的に発生しましたが、
現在の問題は、産業が衰退し、人が去った後、
どのように自然を復興させるかだと筆者は思います。

迷走した玉川毒水中和計画

さて、田沢湖に話を戻しますが、田沢湖・玉川水系の工事には、
もう一つの問題がありました。

田沢湖の北にある玉川温泉の源泉は、ph1.2の強酸性である事が知られていますが、
毎分9トンも湧出する温泉水は、下流域である雄物川も酸性化させる程でした。
江戸時代の仙北郡では雄物川が度々氾濫する事に加え、
「玉川毒水」による農作物への悪影響によって、人々は頭を悩ませていました。

田沢湖は、玉川とは元々隔絶されており、農業用水として利用すると共に、
玉川の酸性水を中和する目的で、1940年より導水が開始されました。

しかし、今となっては余りに「科学的根拠に欠ける」計画により、
田沢湖は年々酸性化し、かつては豊かだった水産物も
絶滅に追い込む結果となりました。
これにより、固有種の「クニマス」も絶滅しました。

現在でも、田沢湖は農業用水および水力発電所として利用されていますが、
玉川温泉付近の中和施設によって、水質は改善に向かっています。

今ならば代替策もあったと思いますが、田沢湖は秋田県最大の水瓶として、
役割を果たしています。

クニマス復活の喜びと共に、再び浮き彫りとなった課題

時は流れ、2010年、遠く離れた山梨県富士河口湖町の西湖で、
クニマスの生存個体が突如発見され、世間を驚かせました。

これは田沢湖から人工的に持ち込まれた個体が、
たまたま自然繁殖したものだとされています。

現在、クニマスの里帰りが検討されているそうですが、
クニマスが生息出来るまで水質は改善しておらず、まだ長い時間が掛かるようです。

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