ビタミンと野菜の歴史

ある人は「豊かな国の条件」として、
「好き嫌いがあるかどうか」であると唱えました。

「絶対的貧困層」と呼ばれる人達は、明日の為の蓄えもなく、
本当の意味で、食事も飲み水も、好き嫌いをするという「選択肢」自体がないのです。
そして「絶対的貧困層」に属している人の多くは、子供達で、
日本から遠くないアジアのスラムでも、数え切れない子供達が生きています。

日本も戦後は、同じような状況で、「腹一杯食べる事」が何より尊かったと言えます。
その為、戦後を生き抜いた世代と、その影響を強く受けた人達と、
「飽食の時代」で生まれ育った世代において、
価値観のギャップがあるのは仕方ないと言えます。

これは某グルメ漫画でよく言われていたような、
「現代の食事は味の刺激や効率性だけを追求し、
現代人は食品添加物だらけの食事に慣れ切っている」という
背景も関係していると思います。

私は本来であれば、自分の子供に教えなければいけない年齢ですが、
最近になってようやく、レタスの美味しさが分かった気がします。
しかし、生のトマトの青臭さだけは、どうしても慣れません。

一般的に子供は大人に比べて偏食なのは、
本能的に苦いものを毒物だと認識している為だと言われていますが、
美味しいものは高カロリーなものが多く、子供や若者は、
高カロリーなものを食べても太らないからだと思います。

女性や30歳以上の男性はヘルシー指向になりますが、
野菜も「体に良いものだ」という自己暗示があれば、美味しく感じるのだと思います。

余談ですが、私はビールにコーヒー、ワインのような、
苦み・渋みのあるもの全般は飲めません。

「野菜」の誕生

農業社会は、イネ科植物が高カロリーである事から、
狩猟採集から農耕に移行し、地球上で最初の人口爆発が起こったと言えます。
しかし、それ以前にも人は「植物は種から育ち、増える」という事を知り得たはずで、
その中で、有毒なもの、食用になるものを覚え、
「栽培」という習慣がそこから始まったと考える方が自然です。

古代において、品種どころか、種類の体系化や同定は進んでおらず、
見た目や香り、効能で見分けるしかなかったと言えます。

また、古代エジプトや古代ローマの歴史に「キャベツ」の記載がありますが、
これは西暦1000年以降に誕生した結球性のキャベツの直接的な祖先であるか、
確証はありません。

古代ローマからケールの品種改良が行われていましたが※1、
当時は当然、遺伝の正体が遺伝子である事が分かっていませんでした。
(この非結球性の葉キャベツは「ポルトガルキャベツ(Tronchuda Cabbage)」という品種の
祖先であるそうです。)
何となく共通認識的に「動植物は雌雄で交わり、子は親に似る」と考えられ、
結球する野菜群(キャベツ、レタス、白菜)も、何らかの政策的な事業というより、
選別により偶発的に生まれたのではないかというのが、私の知見です。

冬と根菜類

今でこそ、夏も冬も同じものが食べられるので、イメージし難いですが、
日本もヨーロッパも、食料を長持ちさせる為に様々な工夫を凝らしました。

そんな中で、ニンジンや大根のような根菜類は、
雪や霜に当たっても地中で養分を蓄える為、貴重な食糧源でした。
ジャガイモが広まったのは近世になってからです。

英語版Wikiによると、寒冷なスコットランドでは、
後に上げる「壊血病」が風土病となっていましたが、
ジャガイモの導入により、1800年までには消えたそうです。

「じゃがいも警察」

余談ですが、「なろう系」界隈において、
「中世ヨーロッパ」にジャガイモが登場する事など、
「史実に従わない事柄」に対し、過剰に指摘したがる人がいるそうで、
そういう人は「じゃがいも警察」と言われているそうです。

「ジャガイモの歴史」は「ゆっくり系解説動画」では擦られ尽くしたネタですが、
掘り下げると大きく脱線してしまう為、ここでは、これ以上触れません。

近世、壊血病の流行

大航海時代になると、船乗りの間で壊血病が蔓延しました。

壊血病はビタミンC不足が原因で起こり、歯茎の出血や倦怠感などから始まり、
末期になると中枢神経に障がいを来たし、生きながら細胞組織が腐敗し、
やがて死に至るという恐ろしい病気です。

知恵として、柑橘類が壊血病を予防・治療する事が知られていましたが、
当時のお偉方は古代ローマや古代ギリシャの古い理論を信じ、
それに反する新しい理論は受け入れられませんでした。

四体液説

四体液説とは、古代ローマや古代ギリシャにおける、血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁を
人間の基本体液とし、その体液のバランスが崩れると病気になるという学説でした。

つい200年前まで、結核の治療として、
患者を断食させ瀉血するという方法が用いられていました。

当時の結核や梅毒の治療は、かえって命を縮めるものであった為、
「医者にかかると死ぬ」と考える人もおり、替わりに民間療法が発展しました。

キャベツとザワークラウト

実は、柑橘類だけでなく生のキャベツにも豊富にビタミンCが含まれています。
ドイツでは昔からキャベツを塩漬けにした「ザワークラウト」が食べられており、
加工過程で大幅に減少するものの、貴重なビタミンC源でした。
そして、保存技術に乏しい船上にも、十分耐え得るものでした。

ザワークラウトは、1768年のジェームズ・クック(イギリス)による航海で、
初めて壊血病による死者なしという功績に一役買いました。

ケールやキャベツ、ブロッコリーなど、アブラナ科野菜の葉の部分には、
ビタミンCが豊富に含まれています。

近世はビタミンやその組成、働きそのものについて分かっておらず、
そこまで科学が発展するまで、暫く待たなければいけませんでした。

栽培の変遷

古代、人々はイネ科植物という「炭水化物」の栽培技術を手にしました。
それから大規模な稲作や小麦栽培が始まり、
土地の広さに応じて収穫を地租として上納する共同社会が生まれました。

地租に適切な農作物は、保存が効き、決まった暦に収穫出来るものなどの制約があり、
非課税対象の野菜は、引き続き農民によって栽培され、保存食としても発展しました。

近世になると、砂糖や香辛料の獲得競争が過熱し、各地の料理が発展しました。

現代になると、畜産の大規模化から、庶民でも動物性中心の食事に移行しましたが、
一方でカロリーオーバーによる肥満が社会問題となり、
本来、殆どカロリーにならない野菜が、ヘルシーであるとして再び脚光を浴びています。

出典

※1
https://www.tohokuseed.co.jp/topic/cabbage1.html

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