禁断の美食、ベニテングタケ

ベニテングタケ

毒キノコの毒成分は、実にバラエティー豊富と言っても良いのか、
シャグマアミガサタケには、加水分解するとロケット燃料になるギロミトリン、
テングタケやベニテングタケには、旨味成分であるイボテン酸が含まれています。

イボテン酸はグルタミン酸の10倍強い味成分を含んでおり、
この事を知ったYouTuberが実食する動画が、界隈では人気となっています。
一時期、危険行為(迷惑が第三者に及ばないものも含む)をするYouTuberが相次ぎ、
YouTubeは危険行為を扱った動画に対し、規制したという経緯があります。
私が知る限り、ベニテングタケをわざと食べて、重大な事態になった人は、
今の所いませんが、真似をする人が相次げば、ペナルティの対象となる可能性もあります。

ベニテングタケは毒キノコ故、市場では当然出回っていないので、
自分で獲りに行く必要があります。
ここで、山の歩き方を知らない人は門前払いを食らいます。
私から見ても、天然のキノコがどのように生えているか、見た事がないので、
その過程を見るのも全く退屈しません。

なお、テングタケを食べたという人は今まで見た事はありませんが、
これは厚労省のページでも、
「毒性はテングタケより弱い」と書かれている為と思われます。※1

採集・実食する様子を上げる人もいれば、真面目に解説する人もいて、
「ベニテングタケ」のネタは刷られ続けており、
正直記事として扱うべきなのか、葛藤がありました。
ただ、植物やネーチャーに興味の強い私にとって、
ベニテングタケは興味深いキノコでもあるのです。

菌類は動物と同じ真核生物で、細胞壁を持ち、その中でも「木材腐朽菌」と呼ばれる種類は、
朽ち木のような、非常に硬い細胞壁を分解する事に特化した専門家です。
中でもナラタケの仲間は、針金のような太い菌糸束を伸ばし、
倒木を内部から食い尽くしていきます。※2

胞子を飛ばす際に、匂いによって虫をおびき寄せ、胞子を虫に付けるものもあります。
キノコは虫が入っている事が多いのですが、ベニテングタケに含まれるイボテン酸は、
蝿を誘き寄せると共に、蝿を殺してしまいます。

他にも、イボテン酸を含むキノコとして、ハエトリシメジがあり、
近年では毒キノコ扱いされているものの、昔の図鑑では、
「過食しなければ食用」ともされています。

なお、ベニテングタケはイボテン酸、イボテン酸が脱炭酸したムシモールの他に、
副交感神経に作用し、様々な症状を引き起こすムスカリンも含まれており、
最悪の場合は心停止を起こし、死亡します。

一方、リスやエゾシカは、テングタケやベニテングタケを食べても平気なようです。
これは神戸大研究者によって論文にもされ、
リスがキノコの胞子を運ぶ役割をしているという仮説を立てています。※3

個人的に、樹上性のリスは雑食性で、進化の過程で解毒能力を身に付けた事、
人間より体重に対する体表面積が多く、代謝も違う事、
シカはウシ科動物と同じく、4つの胃を持ち、消化器の構造が違う事など、
色々な仮説を立てる事が出来ます。

補足

「イボテン酸」はテングタケに酷似する「イボテングタケ」から初めて発見され、
日本で発見された事から、英語でも”Ibotenic acid”と呼ばれています。
発見当時は”A. strobiliformis”と同一種とされ、その後~2002年までは、
テングタケと同一種ではないかという説が生じ、定着したそうです。

余談ですが、ベニテングタケは本州の温帯雨林では、標高の高い地帯に限定されますが、
テングタケは、私が通っていた小学校で見た事がありました。
こちらは、関東平野部など、温暖な地域でも自生しているようです。

出典

※1

※2

※3

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