LGBTQとEnglishman in New York

地球上で最も同性愛嫌悪の激しい場所、ジャマイカ。
レゲエ、ダンスホールという音楽が、セクシュアルマイノリティである「LGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)」について強く批判的な姿勢を続けてきたのは周知の事実だ。
ゲイコミュニティを過激に非難した楽曲を歌うアーティスとして知られるSizzla(シズラ)は「レゲエやダンスホールを邪悪で汚いものとミックスするな。この音楽はホモセクシャルやレズビアンを非難するものだ」と痛烈に批判している。

これはキリスト教や保守的な層による、
ゲイ・レズビアン=自然でない、邪悪、悪魔。
という概念が強いためだ。

だが、2022年をむかえた現在、ジャマイカのダンスホールシーンにも、少しずつではあるが間違いなく変革の時が訪れているようだ。
ダンスホールシーンのクイーンとして君臨するアーティストSpice(スパイス)が、2022年にカナダで開催予定の「LGBTQフェスティバル」への参加を発表。「私は差別をしない!人種や性的嗜好に関係なく、すべてのファンを愛してる」と発言し大きな波紋を呼んだ。

また、新世代のレゲエシーンをリードするフィメールアーティストであるLila Iké(リラ・アイケ)は、自身がレズビアンであることをカミングアウト。「私の名前はリラ・アイケ。女性が好きで、そしてレゲエミュージックを作り続けている」「女性を愛する女性が歌っても、レゲエミュージックは決して死なない」と、レゲエとセクシュアルマイノリティ差別は結びつくものではないと力強いメッセージを発信した。

こういったムーブメントは、レゲエ、ダンスホールの歴史において過去に例がなかったことだ。SNSには彼女たちの勇気を持った行動にサポートのコメントが溢れる一方、多くのヘイトコメントが目に留まることも事実だ。

ここで、ふとShinehead(シャインヘッド)の「Jamaican in New York」を思い出した。
この歌の元ネタはSting(スティング)の「Englishman in New York(イングリッシュマン・イン・ニューヨーク)」である。

タイトルにもなっている「ニューヨークに住む英国人」とは、誰か?
それは英国の作家、俳優であるQuentin Crisp(クエンティン・クリスプ)である。
(PVの0:40から本人が登場している)

クリスプはゲイを早い段階で公表した人物としても有名だ。1981年からニューヨークに移り住んでおり、1986年にスティングは彼の小さなアパートを訪れている。その時のクリスプとの会話から、この「Englishman in New York」を書くことを決めた。

そう、これはゲイに捧げられたレゲエミュージックなのだ。

筆者はこの歌に対する同性愛批判を聞いたことがない。
寧ろ、シャインヘッドのようにカヴァーするレゲエミュージシャンもいる。

このPVに出てくるクリスプ・・穏やかな英国紳士といった雰囲気で実にカッコイイ。
英国人であるクリスプは、たとえニューヨークに住んでいようとアメリカナイズされることなく英国人あることを捨てなかった。

この曲で一番大事なのは、
It takes a man to suffer ignorance and smile
(紳士なら無知に耐え、笑顔をつくりなさい)
Be yourself no matter what they say
(誰が何を言われようが、自分らしくいることだ)

現代のジャマイカでLGBTQの人々が誰に何を言われようが、自分らしくいることは難しいだろう。
2013年には女装してパーティーに参加した少年が銃撃され、死亡している。彼はトランスジェンダーだった。

そんな中でスパイスやリラ・アイケが批判を恐れず声を上げた意味は大きく、特にレゲエファンでありセクシュアルマイノリティであるジレンマを抱えた人たちへ与えた勇気は測り知れないものだろう。

Be yourself no matter what they say

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