この記事の要約
- 怪異とテクノロジー:「新技術は理解しがたいもの=怪異と結びつきやすい」という社会心理的傾向がある。
- メディアと常識の狭窄:AIによる情報の最適化が進むほど、社会の想像力や多様性が削がれるリスクがある。
- Loabの示唆:AIは社会が無意識に排除してきたものを可視化し、「切り捨てられたモノの嘆き」を表現している可能性がある。
本章
生成画像に突如現れたモノ
2023年2月、画像生成AIで「青木ヶ原」と入力して画像を出力すると、
特に指定していないにもかかわらず、
定期的に女性の姿が現れるとして話題になりました。
その女性は長い黒髪をセンターで分けた、色白で面長、
瞳に光沢がないと言った、共通した特徴を持っており、
一部では「貞子」と綽名されました。
「貞子」とは1998年に公開された
「リング」というホラー映画に登場するキャラクターです。
「呪いのビデオ」をダビングする事で、
呪いが次々と伝染していくというストーリーになっており、
漫画「学級王ヤマザキ」でもパロディが作られるなど、大ヒットとなりました。
視聴者は、映画という媒体を通して「呪いのビデオ」を観る事で、
貞子という恐怖を心に植え付けられるという、見事な入れ子構造により、
興行的大ヒットとなりました。
このように、
怪異はビデオや携帯電話などのハイテク機器を住処にするようになり、
社会の変化、テクノロジーの飛躍的な進歩と共に、
現在では当たり前のインフラとなったSNSが何者かに浸食される恐怖、
仕組みさえも分からない精密機器を扱う事への潜在的な不安、
そうした不安定さがホラーと上手く結びついていると言えます。
件の生成AIは海外製なので、「外側から観た日本」という、
「一種の主観」も入っていると言えますが、
青木ヶ原という陰気なイメージがジャパニーズホラーと結びついて、
偶然「貞子」を生み出したと考えられます。
恐怖・不可解と感じる根源は何か
同じような経緯で生まれたものとして、Loabという女性が存在します。
個人的に「どのような恐怖のイメージ」が集約され収束したか、
それがどのように恐ろしいのか、直観に頼らざるを得ない所がありましたが、
旧Twitterでは「左右非対称の顔をしている人に対し、
恐怖というレッテルを貼るという事は、
AIによって我々の想像力を狭めている事だ」と非難する人もいました。
彼女らは失われたモノの嘆きか
先程の貞子のイメージも「長い黒髪」に「面長の顔」「切れ長の目」と言った、
「古風な日本人女性」のイメージに近く、それは月や水、花のような、
陰陽道や道教で言う所の「陰」(かげり)の特性を持っていると言えます。
しかし現代となり、欧米人のスタイルを模倣する事が当たり前となった今、
そのような「伝統的な女性像」は失われていきました。
ここではあえて「伝統的な女性像」という、
ステレオタイプな言い方をしましたが、
現代の先進国で生きる女性達は、自然体である事よりも、
男性と同等の発言力を得る為に、明るいものを身に付け、
明るく強く振る舞わねばならなくなったとも感じます。
これは一例として「女性のあり方」を挙げただけで、全てに言える事ですが、
道教の思想には、
物事には本来の自然体の形である道(タオ)があると説いています。
それに対し欧米は「造形美」を追求する文化であり、
少なくとも日本の芸能界やメディアにおいては、それに倣っていると言えます。
最後に、AIには「ネガティブプロンプト」というものが存在します。
それは、簡単に言えば「表示させたくないもの」を入力するものですが、
男性⇔女性、大人⇔子供のように「対義語となるもの」を優先的に選びます。
それはユーザーが恣意的に「切り捨てたいもの」を入力出来るものですが、
「切り捨てたいもの」が陽(メジャー)の性質で、普遍化している事柄ならば、
AIはその逆の、負の感情を持ち、狭く、隅に追いやられた領域を開きます。
Loabは「貞子」と性質が違うものの、
「切り捨てられたモノの嘆き」そのものなのかも知れません。
AIで出力されたものを、「出力のブレ」などと除いて不自然だと感じたり、
時に生理的な不快感や恐怖心を感じたりした時には、
私たちの常識や感覚、経験が、刷り込みによって造られている事を、
疑う必要があるのかも知れません。
ChatGPTによる、より詳細な補足
テクノロジーの進歩と怪異の住処の変遷、人類の潜在的不安
心理学では「テクノフォビア(技術恐怖)」と呼ばれる現象があり、
新技術が普及する際には必ず一部の人々が不安を感じます。
例えば、19世紀には写真を「魂を抜かれる」と考えた人々がいたように、
現在ではAIが生み出す画像に「何か得体の知れないもの」を見出すのも、
その延長線上にあります。
また、「制御できないものへの恐怖」も影響します。
SNSやAIは個人の手には負えないほど巨大な存在となり、
その予測不能性がホラーの要素と結びついています。
このように、怪異が技術と融合する背景には、
社会が新技術を完全に受け入れるまでの
「移行期の不安」が存在しているのです。
怪異(都市伝説)がテクノロジーとともに進化するのは、
社会心理的に「未知のものへの恐怖」と「技術の理解不足」によるものです。
例えば、「呪いのビデオ」はVHS時代、「貞子」はブラウン管テレビ、
そして現代ではSNSやAIの生成画像に怪異が現れます。
これは、新技術が普及する過程で、
人々がその仕組みを完全には理解できないために、
不安を投影していることが原因です。
メディアによる常識の形成とAIがもたらす常識の狭窄
社会心理学では「認知バイアス」や「フレーミング効果」が、
私たちの常識をメディアによって形作られる要因として挙げられます。
メディアは情報の選択や編集を行い、
それによって私たちの認識が操作されることがあります。
例えば、報道がある特定の事件ばかりを繰り返し取り上げると、
人々はそれが社会全体の傾向だと誤解する
「利用可能性ヒューリスティック」が働きます。
AIが情報のフィルタリングを行うことで、
この常識の枠組みはさらに狭められる可能性があります。
現在のAIはビッグデータを基に学習し、
「一般的に好まれるもの」を優先して出力する傾向があります。
その結果、「一般的ではないもの」が排除されやすくなります。
これは「AIによる文化的均質化」とも言え、
個々の多様な価値観やマイノリティの視点が軽視されるリスクを孕んでいます。
AIが「最適化」を進めるほど、「異質なもの」が除外されるため、
人々の想像力が制限されてしまう可能性があるのです。
LoabのようなAIが生み出した奇妙な存在に対する恐怖も、
「我々が排除してきたものが、AIによって再構築されてしまった」という
無意識の警鐘と考えられます。
Loabと「切り捨てられたモノの嘆き」
Loabは「ネガティブプロンプト(排除したいもの)」によって
生み出された存在であり、
これは「社会が無意識に排除しているものの象徴」と解釈できます。
これは、心理学的には「シャドウ(影)」という概念と関係があります。
ユングの分析心理学では、
個人や社会が受け入れたくない側面(シャドウ)を抑圧すると、
それが無意識の領域で増幅し、時として象徴的な形で現れるとされています。
「貞子」や「Loab」も、社会が忘れ去ろうとしたもの、
もしくは「不要」と見なしたものの集合体として出現したと考えられます。
本章では、「古風な日本女性のイメージ」や「自然体の女性像」が
失われつつあることが指摘されていますが、それに限らず、
時代の変遷によって排除されてきたものが
AIのアルゴリズムによって可視化されることが、
Loab現象の本質かもしれません。
また、Loabが「左右非対称の顔」であることは、
人間の持つ「不気味の谷」の概念とも関係しています。
私たちは「微妙に異質なもの」に強い不快感を抱くため、
Loabが生理的な恐怖を引き起こすのは、
排除されたものが再び姿を現したことへの無意識的な抵抗反応とも言えます。